病気対処術《五十肩編》2008/02/19
堀口和彦 著、光和堂 発行

 腕を挙げたり、後ろに回したりすると、肩に鋭い痛みが走りませんか? このような痛みが、慢性的に続くようなら、五十肩の可能性が高いです。五〇代で起こることが多いので、五十肩と呼ばれていますが、六〇代の方でも好発します。正式には肩関節周囲炎といい、肩周辺の筋肉や滑膜、靭帯や腱などが炎症を起こし、さらに神経線維も巻き込む疾患です。

 第一段階: 肩関節の潤滑油不足

 運動不足や血行不良、慢性的な肩こりは、肩関節の潤滑油を減らし、加齢によりさらに不足させます。この時点では肩を回すとゴリゴリ音がし、引っかかりを感じてスムーズに動きません。「何だか最近肩の回りが悪いなあ」と感じる初期レベルです。この時点での改善がベストです。五○才を過ぎたら、肩や腕を動かして回り具合を日常的にチェックしましょう。

 第二段階: 鼻のど口腔内の炎症が肩関節に延焼!

 肩関節の潤滑油不足状態が続き、歯肉炎や歯槽膿漏など口腔内の炎症、または風邪やアレルギーによる扁桃腺炎・鼻炎など咽喉頭や頚部の炎症が慢性的に持続すると、五十肩の症状は一気に加速され悪化します。鼻のど口腔内の炎症が腋窩リンパへ拡がり、ちょうど火事の延焼のように肩へ飛び火して、肩関節の炎症が助長されるのです。それによって肩腕の挙上や回転などの動作による痛みが激化します。「歯肉炎で歯医者さんに通っているうちに、肩まで痛くなってきた。」「風邪が長引き、治った頃に肩の痛みが強くなった。」などと訴える方が多くいます。

 第三段階: 神経線維を巻き込む

 リンパ節からの飛び火により肩関節の炎症は激しくなり、それが持続すると肩周辺を通過する神経線維までも巻き込みます。この状態では、肩や腕を動かさなくても痛みを発し、寝ている時にもジンジンと痛み、安眠を妨げる程になります。これでは、睡眠不足から疲労が蓄積し、筋肉の緊張や血行不良がさらに進行します。精神的にも過敏になり、痛みがさらに痛みを呼ぶ「痛みの悪循環」に陥ります。これが五十肩の最悪の事態です。

  五十肩はなぜ五十代に多い?

 ます肩や膝などの関節の潤滑油は中年期から減少し始めます。 一方、体力や抵抗力は中年期までは維持され、体内での炎症の勢い も若者と同様に依然強い状態が続きます。アレルギー疾患が若者か ら中年期に多いことも、この炎症の勢いを裏付けます。この2つの要 因が重なる五〇から六〇代に、五十肩は好発すると寺えられます。

治療のポイント(1)炎症を鎮める

 肩関節周囲の炎症を先ず鎮めなければなりません。痛みがあまり強くない時は、温めたり肩を動かして血行を良くし、新鮮な血液を送り込んで、炎症を鎮めることも可能です。しかし、痛みが強い時は、逆に安静にして適度に冷やすことです。また、肩の炎症を助長したのど鼻や口腔内に原因がある場合は、それらの消炎も不可欠です。鍼は炎症を抑え、お灸は血行を促進する作用があります。この2つの作用を上手に使い分けて肩周囲の炎症を鎮めます。また漢方では、葛根湯や二朮湯を使います。

治療のポイント(2)神経線維を救い出せ

 五十肩による動作時の痛みは、炎症している筋肉や腱を伸縮することで発生しますが、自発痛や激痛時では、それらに押さえ込まれている神経線維も影響を受けて、発痛に直接関与しています。炎症の長期化は筋肉や腱の結合組織と神経線維を接着させ、神経線維の自由度を奪い、腕や肩の動きによって神経線維も引き伸ばされているようです。痛みの激しい方の多くは、肩や上腕だけでなく、肘から前腕まで痛みが走っています。これは明らかに橈骨神経や正中神経が押さえ込まれています。肩部だけでなく、頚や肘部も治療して、神経線維を全体的に開放しなければなりません。半端に一箇所だけ開放させると、他の箇所での引っ張りが強くなり、痛みが悪化することがあります。これが、五十肩激痛時の治療が難しいところです。火に油を注ぐことがないように、的確な治療を受けましょう。

腕を後方にすると痛い場合
 肩前面にある雲門(うんもん) と肘の前面にある尺沢(しゃくたく)を指圧しこの付近をよく揉みほぐします。
腕を真上や前方に挙げた時に痛い場合
 肩後面で腕の付け根にある肩?(けんりょう)とその下にある臑兪(じゅゆ)を押し、この付近の痛いところをよく揉みほぐします。
 鍼灸では頚椎から腕まで連なる腕神経を救い出すように、頚部から肩や腕、さらに肩甲骨周辺を治療します。漢方では桂枝越婢湯などを使います。

五十肩の対処法

 肩の力を抜き、ゆっくりと腕を振る。徐々に振り幅を大きくする。反復することで、肩関節に潤滑油を補充し、五十肩の予防とリハビリになる。
ダンベル振り子体操


(1)肩腕を回して、肩関節の異常を早く見つける。(早期発見)
(2)軽い引っ掛かりや少し痛みを感じたら、入浴後の体が温まった時に、軽いダンベルを持ち振り子のように腕と肩をゆっくり大きく動かす。力は入れずに惰性で動くようにぶらぶらと往復運動をする。このブランコのような動きが肩関節に潤滑油を補充してくれる。肩がスムーズに回るまで毎日続ける。(予防十早期治療)
(3)肩や腕を動かすと痛む場合は、治療が必要。(2)と同様にダンベル振り子体操を行なう。痛みが強い場合は無理をしない。(治療+リハビリ)
(4)肩腕を動かさなくてもジンジンと痛い場合、もちろん治療が必要。神経線維も巻き込んだ状態。筋肉のこりや炎症度、さらに神経線維の引っ掛かり具合と場所を見る。また、痛くて動かせない期間が長くなると腱板付近に石灰化が起こることがある。そこまで悪化させないように、早めに治療を開始。運動療法は、ある程度自発痛が治まったら始める。(治療+服薬)

右の対処法にある(3)のレベル(腕や肩を動かすと痛い)の五十肩では、完治まで一ヶ月から半年ぐらいかかります。(4)のレベル(動かさなくても痛い)では、三ヵ月から一年ぐらいかかります。痛みの激しい時期は一ヶ月ぐらいですが、完治には時間を要するのが五十肩です。やはり、早く見つけて早く治すことを、心掛けましょう。


病気対処術《五十肩編》2008/02/19
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