【光和堂通信】第34号2004年春季号(Vol.9,No.3)2004.05.01
[予防と早期治療のために]

 桜・山吹・さくら草・藤に牡丹と、色鮮やかな花と木々の青葉が、次から次へ と目を楽しませてくれます。外を歩き回るのに本当によい季節です。
 近頃自転車に乗ることが多くなりました。北浦和から中山道を北上して氷川参 道に入り、氷川神社、大宮公園を一周するコースは平坦で気楽に走れるコースで す。また、さらに大宮公園から見沼用水路に沿って下るコースは約20キロで、 かなり運動になります。この季節は体に受ける風がなんとも気持ちいいです。

◆ 皮膚の病気 その2
 皮膚は体の表面にあり、その症状は当然目に見えるので、治療は簡単そうに思 えるかもしれませんが、実は奥が深いのです。皮膚病は皮膚だけの問題ではなく、 内臓や免疫系、内分泌(ホルモン)系、自律神経系などの不調が、その結果として 現れている場合が多いのです。ですから結果である皮膚の症状の原因をしっかり 捉えて、それを改善していくことが大切です。
 前号では、湿疹・皮膚炎の中で、アトピー性皮膚炎のみ紹介しました。今号では、 湿疹・皮膚炎の中から接触性皮膚炎、脂漏性湿疹(しろうせい)、ビダール苔癬(た いせん)、貨幣状湿疹(かへいじょう)を取り上げます。そして蕁麻疹(じんましん)、 さらに水疱症・膿疱症から、掌蹠膿疱症(しょうせき)、炎症性角化症からは尋常 性乾癬(かんせん)を紹介します。

◆ 接触性皮膚炎
 接触性皮膚炎は、いわゆるかぶれから始まります。洗剤や薬品、金属、衣類な どとにかく体に触れるものはアレルギーを起す可能性があります。しかも、これ らの刺激となるものが繰り返し皮膚に触れることによって発症します。
 この反応は即時型の免疫抗体反応とは異なり、遅れて登場する免疫細胞である Tリンパ球が主役を演じます。いわゆる�型アレルギーと呼ばれ、Tリンパ球な どの免疫細胞が刺激を受け活動し、さらに貪食細胞(どんしょく)という掃除役が 出現し、皮膚患部に炎症を起させ、痒みや赤みを発生させるのです。アトピー性 皮膚炎は即時型の�型の他にこの遅延型の�型も含まれます。
 アレルギーの原因となる金属や化学物質などを、まず特定して接することがな いように遠ざけましょう。ネックレスなど金属の場合は汗によって悪化します。

◆ 脂漏性湿疹
 脂漏性湿疹は乳幼児に多く、皮脂の分泌が盛んな時に起ります。皮膚は乾燥や ひび割れから自らを守るために、天然のオイルを分泌しています。この油分が多 く皮膚表面に堆積し、食べ残しや汗などの汚れと一緒になり、それが反応して痒 みと炎症を起すのです。この場合は刺激の少ない石鹸で、皮脂をよく洗い流して あげましょう。

 成人の場合は、髪のはえ際や鼻の周り、わきの下や足の付根など皮脂の分泌が 盛んな部位に発生します。赤くやや痒みがあり、ふけがでます。脂肪代謝がうま く行かずに発症しますが、癜風菌(でんぷうきん)(かび菌の一種)などの真菌や 細菌が皮膚に住みつき、なかなか治らず長引く場合があります。漢方では防風通 聖散(ぼうふうつうしょうさん)がよく、脂肪代謝を調整し、皮膚の炎症や痒みを 改善します。

◆ ビダール苔癬
 なにか恐ろしい病気をイメージする名前ですが、決してそんなことはありませ ん。項部にできる湿疹が慢性化し、皮膚がやや盛り上がりカサブタのように硬く なります。中年期の女性に好発し、ネックレスなどの金属類や、シャンプーやリ ンス、毛染剤などの化学薬品によるかぶれが原因とされています。接触性皮膚炎 と異なる点は、皮膚炎が慢性化し、苔癬化することですが、この背景には首すじ や肩の慢性的なコリによる血行障害があるようです。老廃物に満ち汚れた血液が 項部に溜まり、新鮮な血液がめぐってこないので、皮膚が苔癬化するのです。
 三陵鍼という特殊な鍼で、患部付近を刺鍼して老廃物の溜まった旧血を取り除 き、血行を促し新鮮な血液がめぐってくるようにします。すると、首肩のコリも 解消され苔癬も徐々に退散していきます。

◆ 貨幣状湿疹
 中高年の足の脛付近にでき易く、ちょうど貨幣のような形とサイズです。実は 私の足にも現在発生中で、中高年に仲間入りしたようです。お風呂に入ると激し く痒くなります。つい掻いてしまうのですが、我慢しないと患部に引っ掻き傷が でき、そこに細菌が入り込むとさらに悪化し、慢性化します。
 皮膚の乾燥や皮脂の欠乏が原因で冬季に発症する場合が多いので、皮膚の保湿 を促し、細菌が入り込まないように、患部を軟膏で保護することが大切です。か さかさ乾燥して痒い時は、紫蘇の葉エキス入りのクリームがよく効きます。慢性 化して引っ掻き傷ができている場合は、中黄膏(ベルクミン)をお試しください。 細菌感染している場合もよいです。

◆ 蕁麻疹
 表皮の下にある真皮には、血管や神経、リンパ管や免疫細胞が存在します。血 管は皮膚の成長や再生のために血液を運び、神経は外部から刺激を感知し身体を 守ります。リンパ管は、リンパ液や免疫細胞を運び、皮膚からの細菌感染を防御 します。このように真皮は皮膚を養い、外敵の侵入を防ぐという重要な役割を担 っています。
 ところが、外部からの刺激が強すぎ、過剰に反応し、さらに体内の毒素が多く なると、この真皮にある免疫細胞である肥満細胞が反応し、ヒスタミンを多量に 放出します。このヒスタミンが痒みを誘起し、血管の透過性を高めて真皮にリン パ液の貯留をつくり、皮膚が赤く腫れ膨隆してきます。これが蕁麻疹です。

 外部からの刺激には、寒冷や温熱、日光(紫外線)などの環境要因や、引っ掻き やハンドバックなどによる物理的な刺激で蕁麻疹は発症します。さらにハウスダ ストや家ダニなどの室内環境、また、食物や薬物アレルギーによる蕁麻疹もあり ます。原因を特定し難いことが多いのですが、反応が短時間ででることが多いの で、注意深く観察して原因を究明しましょう。
 蕁麻疹も�型アレルギーというIgE抗体の異常増加が発症メカニズムです。 IgE抗体が肥満細胞を刺激して、痒みや炎症を引起すヒスタミンやロイコトリ エンを大量放出しますので、前号で紹介したアレルギー誘発食品の摂取を控えま しょう。蕁麻疹には、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)、喘息を併発する場合に は、越婢加半夏湯(えっぴかはんげとう)がよく効きます。

◎ 自分でできる即効指圧 その33
             皮膚病

リンパ免疫系 扁桃腺のある扶突(ふとつ)や天鼎(てんてい)をよく揉みほぐすように指圧します。リンパ液の流れを促進し免疫機能の働きを正常にします。 内分泌系 腰にある志室(ししつ)を親指で柔らかくするように指圧します。これはステロイドホルモンを分泌する副腎につながっています。

◆ 掌蹠膿疱症
 手の平(掌)や足の裏(蹠)に水疱や膿疱(膿(うみ)をもった水ぶくれ)が発生し、 慢性化してなかなか治らないのが特徴です。一見すると人にうつりそうな皮膚病 ですが、無菌性ですので水虫のように感染することはありません。痒みはあまり ないのですが、手足がほてり、熱感が強いと時に痒いようです。
 原因ははっきりしていないのですが、のどにある扁桃腺と手の平や足の裏にあ る皮膚の抗原に共通性があり、慢性的な扁桃炎によってできた抗体(IgA)が、 扁桃腺に似た抗原を持った手足の皮膚表面を誤って攻撃してしまうことが判明し ています。もう一つは、歯科材料による金属アレルギーも原因に取り上げられて います。

しかし、因果関係は明らかではありません。いずれにしてものどや口腔 内の粘膜と手足の裏が関連していることは明らかです。
 このことは、東洋医学での経絡(けいらく)の走行を実証する上でも重要な発見 です。手の陽明大腸経という経絡は、人指し指から親指のつけ根を通って腕を上 って、肩からのどを通過して、あごから歯茎さらに鼻へつながっていきます。特 に鼻炎や歯肉炎、口内炎、扁桃炎などの頭部炎症性疾患が起った時に反応がでる 経絡で、そんな時には親指のつけ根の合谷(ごうこく)というツボやその裏にある 魚際(ぎょさい)(肺経)に顕著な反応が現れます。そのような反応のあるツボは、 腫れたり熱を持ったり、押すと痛かったり気持ちがよかったりします。治療には その異常な反応を取去るように、鍼や灸、指圧などを施します。漢方薬では、三 物黄金湯(さんもつおうごんとう)や温清飲(うんせいいん)などをもちいます。
 また、掌蹠膿疱症骨関節炎と呼び胸骨や肋骨、鎖骨、あるいは骨盤などの関節 をIgA抗体が攻撃して関節炎を併発する場合もあります。手足の水虫のような 水疱と、胸や背中、腰などの痛みが同時に起っている場合は、この掌蹠膿疱症か もしれません。消炎鎮痛剤で一時的に痛みが緩和されても、なかなか治りきらな いこのような関節炎には、桂枝二越婢一湯(けいしにえっぴいちとう)などで異常 な免疫反応から改善していく必要があります。

◆ 尋常性乾癬
 髪のはえ際や肘、膝、臀部、陰部などに発生する炎症性角化症で、患部は赤く 盛上がり(紅斑)、鱗状(うろこ)のかさぶた(鱗屑(りんせつ))ができて、皮膚が ボロボロ剥れ落ちます。痒みはないことが多いのですが気になる症状です。表皮 は通常2〜4週間で生まれ代わるのですが、乾癬ではその再生速度が異常に早ま り、角質層が十分に完成されないうちにどんどん表皮が盛り上がってしまうので す。原因は明らかにされていませんが、成人での発症や食生活の影響から、患部 での旧血の存在が関与しているようです。
 ビダール苔癬や掌蹠膿疱症とは発症部位が異なりますが、鍼灸治療では老廃物 の溜まった旧血の除去、漢方薬では上半身の症状に防風通聖散、陰部での発症に は竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)がよく用いられます。

◆ 漢方の軟膏
中黄膏(ちゅうおうこう)(ベルクミン)…ウコンと黄柏(おうばく)(キハダ)が 主役で、炎症を鎮め化膿を止めます。顔(目の周り)にも使えアトピー性皮膚炎 や貨幣状湿疹に最適です。
太乙膏(たいっこう)…当帰が慢性化した皮膚病のうっ滞した旧血を流し、玄参と 大黄が痒みと炎症を去り、地黄が副腎ホルモンの働きを調整します。掌蹠膿疱症 や尋常性乾癬に是非お試しください。


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