【光和堂通信】第35号2004年夏季号(Vol.9,No.4)2004.08.01
[予防と早期治療のために]

 暑中お見舞い申し上げます。

連日の猛暑は堪えます。汗・汗・汗…。冷房なしでは汗の連続で、日に何度も肌着 を替える程です。こんな発汗の多い時は水分や塩分が失われ、体力も消耗します。 先日剣道の稽古に半日参加したところ、途中から激しい頭痛が発生、帰宅後も続き 食欲もなくなりました。スポーツドリンクを飲んでいたので、水分と塩分の補給は 十分かと思っていたら、さにあらず。夕食時にお新香を一切れ食べたら、なんとも おいしく体が喜んでいるようで、気がついたら一皿食べ尽くしてしまいました。そ の後、身体がシャキットしてきて、頭痛も治ってきました。激しい運動での大量の 発汗時は、予想以上に塩分が消失されていることを体感しました。
 ついでに失敗談をもう一つ。連日の暑さの始まったころ、つい暑さに負けて冷房 をつけたまま寝てしまい、翌朝からのど痛が発生。翌日も熱帯夜で寝られずに冷房。 いよいよ咳と声枯れ。バカがひく夏風邪が出来上がり。熱はないが悪寒があり、冷 房の風が嫌な感じ。このように風邪をひくときは、後手後手に回って服薬のタイミ ングを逸するのですが、なんとか柴胡桂枝(さいこけいし)乾姜湯(かんきょうとう) を中心に回復しました。でも、風邪は辛いもの、冷房での冷やし過ぎにどうぞご注 意ください。
 今号では、高脂血症を取り上げますが、最近ではメタボリックシンドローム(代 謝症候群)と呼ばれる概念から高脂血症、高血圧症、糖尿病、肥満症などを複合的 に捉えることが主流になりつつあります。

◆ 高脂血症
 体脂肪計が普及し皮下や内臓の脂肪は実感しても、高脂血症という血液中に脂肪 分が多いことを自覚できる人は少ないでしょう。また高脂血症と診断されても、す ぐに病気が発症するわけではありません。しかし、血液中に悪い脂肪分が多くなる と、血管が詰まり易く硬くなることは想像に難くないでしょう。
 高脂血症には、原発性高脂血症と続発性高脂血症の二種類あり、前者は遺伝的に 発症するもので家族性高脂血症とも呼ばれ、食生活とはあまり関係がなく、皮下脂 肪も少なく痩せ型の人でも発症します。いわゆる体質によるものです。一方、続発 性高脂血症は、食生活や運動不足、ストレス、ホルモン異常、腎機能低下などによ って引起されます。
 高脂血症の診断基準は、次のようです。
総コレステロール…二二〇mg/dl以上
悪玉(LDL)コレステロール…一四〇mg/dl以上
中性脂肪(トリグリセリド)…一五〇mg/dl以上
善玉 (HDL)コレステロール…四〇mg/dl未満

◆ 悪玉は運び屋‐善玉は掃除屋
 悪玉とは、コレステロールが血管壁にこびり付き易いタイプのものです。コレス テロールや中性脂肪は油分なので、そのままの状態では、血液という食塩水に近い 水溶液には溶けないのです。そこで、タンパク質など水に溶け易い成分を浮輪のよ うに着けて、プカプカ浮かぶようにして、血液中を流れているのです。LDLとは、 低比重リポタンパクのことで、浮輪であるリポタンパクに対して多量のコレステロ ールが取り付いているので、重く血液中で沈み易く、血管壁に付着し易いのです。 一方、HDLは高比重リポタンパクで、コレステロールに対して浮輪が大きいので、 スイスイと血液中を流れ、むしろ血管壁に付着したコレステロールを回収し掃除し てくれるのです。
 本来コレステロールは、身体の構成材料である細胞膜に使われたり、生殖や身体 の恒常性を維持するホルモンの原料になったり、脂肪の消化吸収に関与する胆汁酸 の材料になったりと重要で必須な物質です。一方中性脂肪は、身体活動のエネルギ ー源となったり、皮下や内臓にあっては身体を外部環境から守る役割などを担って います。悪玉と呼ばれるLDLは、このように本来大切なコレステロールを肝臓か ら全身に血液中を流れ運搬しているのです。

◆ 動脈硬化
 動脈硬化発症のメカニズムは、まず高脂血症により血液中で余剰になった悪玉コ レステロールが、血管壁に停滞し粥状のドロドロした塊をつくります。そこに、老 廃物が蓄積し、高血圧による血管への負荷や、高血糖状態、喫煙による血中一酸化 炭素の増加などの要因が加わり、血管の内壁はさらに厚く硬くなり、血栓が起こり、 ついには血管が詰まってしまうのです。その結果、心筋梗塞や脳梗塞、大動脈瘤な ど深刻な病気が発生するのです。

◆ メタボリック・シンドローム
 なにか恐ろしい病気をイメージする名前ですが、日本語訳すると「代謝症候群」 となり、脂肪分や糖分などの代謝異常から発症する病気の総称です。WHOが提言 した病気の概念をもとに、米国コレステロール教育プログラムが二〇〇一年に診断 基準を発表しました。
 これまでは動脈硬化の原因とし、総コレステロールと悪玉コレステロールが重視 されてきましたが、これだけでは十分ではないことが近年明らかにされました。つ まり、高脂血症だけを改善しても動脈硬化は防げないということです。そこで、そ れ以外に関与する原因を追究した結果、血圧・肥満・血糖が危険因子として浮上し てきたのです。

そしてさらにこれらの四つの因子がそろった場合は「死の四重奏」 と呼ばれ、動脈硬化から心筋梗塞や脳梗塞などの心血管系疾患になる確率が三〇倍 以上も高くなることが判明したのです。二つある人でも正常の人の一〇倍リスクが 上がります。このように危険因子の重複から捉えた場合は、マルチプルリスクファ クター症候群と呼び、メタボリックシンドロームと同義に扱われています。
表1.労災保険によるガイドライン
 血圧 最大血圧140mmHg以上
    または最小血圧90mmHg以上
 肥満 BMI(=体重kg÷身長m÷身長m)
    25以上
 血糖 空腹時110mg/dl以上
      HbA1c 5.6%以上
 血中 総コレステロール220mg/dl以上
 脂質 善玉(HDL)コレステロール40mg/dl未満
    中性脂肪150mg/dl以上
 日本ではメタボリックシンドロームの診断基準はまだ設定されていませんが、労 災保険によるガイドラインは表1のようになっています。ここで注意しなければな らいことは、異常な程度が軽度でも、複数の因子にまたがっていれば危険であるこ とです。つまり、血圧が一四五―九五で、血糖値が一二〇の人はいずれも基準値を やや上回る程度ですが、総コレステロールや中性脂肪が三〇〇以上あって他がすべ て正常な人に比べると、数倍も動脈硬化になる危険があるのです。

◆ 免疫力と代謝力

 漢方の治療原理   自己治癒力
 代謝力  免疫力
営(えい) 衛(え)
漢方の治療原理は、自己治癒力を最大限に引き出すことにあります。自己治癒力 の大きな二本柱は、免疫力と代謝力です。免疫力は、ご存知の通り抵抗力であり、 外部侵入者である細菌やウイルスを打ち負かす力、さらに体内で起こった異常を修 復する力、つまり傷口や潰瘍を修復したり、ガン細胞を攻撃する力です。漢方では この力を衛(え)と呼びます。
 代謝力とは、食べ物や酸素など外部から取り入れるエネルギー源を、効率よく身 体の運動エネルギーに変換する力です。食物を胃腸で消化吸収し、栄養素を全身の 細胞に運び、老廃物を肝臓で代謝して腎臓で排泄する。さらに肺や皮膚で呼吸し、 全身の細胞に酸素を運び、二酸化炭素を肺に戻し放出する。これらが代謝力です。 この力によって、心臓を動かし血液を全身にめぐらし、内臓や脳を働かせ、筋肉を 動かし、生命活動が営まれているのです。漢方ではこの力を営(えい)と呼んでいま す。

◎ 自分でできる即効指圧 その34
             内臓脂肪

脂肪肝
 期問(きもん)日月(じつげつ)、章門(しょうもん)を指の腹を使って指圧します。 脂肪肝ではこの部分が硬くなっていますので、柔らかく揉み解してください。

◆ メタボリックシンドロームと漢方
 メタボリックシンドロームは、まさにこの代謝力の低下が原因で発症します。代 謝力を活性化するために、漢方では発汗・排便・排尿を促進させる手法を採ります。 原始的な発想かもしれませんが、現代医学による高脂血症薬や降圧剤を服用する前 に是非ご検討頂きたいと思います。
 発汗剤には、有名な葛根湯があります。風邪薬として知られていますが、新陳代 謝を活性化して汗を発し、首筋から肩にかけての筋肉の強ばりやコリ、さらに頭痛 を解消します。この作用を利用して、肩こりを伴う高血圧に応用します。
 排便を調整する漢方薬は二〇種類以上あります。中でも、防風通(ぼうふうつう) 聖散(しょうさん)は内臓の働きを高め、脂肪代謝や水分代謝を活性化し、大便と小 便の排出をよくします。高血圧や高血糖にも利用され、メタボリックシンドローム に最適な漢方薬です。
 排尿を促進させる漢方薬には猪苓湯(ちょれいとう)があります。飲んでも小便が 出ずにむくみ、時に血尿があり、あるいは腎結石がある場合も使用されます。

◆ 運動療法
 脂肪を効率よく燃焼させるためには、有酸素運動が最もよいとされています。有 酸素運動とは、体内に十分な酸素を取り込みながら、苦しくない程度で、ある程度 の時間持続して行う運動です。ジョギングやサイクリング、水泳、縄跳びなどがこ れに相当します。
 光和堂では、『光和堂(こうわどう)元気(げんき)倶楽部(くらぶ)』を開始しまし た。エアロバイクといわれる、有酸素運動に適した自転車こぎのマシーンもありま す。その他、ストレッチや筋トレなどもできます。どなたでも利用でき、さいたま 市在住の六十五歳以上の方はさいたま市の助成を受けることができます。肥満や高 脂血症、高血圧症などメタボリックシンドロームの方は是非ご活用ください。  

★ 〈お知らせ〉 
 8月12日(木)〜15日(日)お盆休みします。


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