【光和堂通信】第36号2004年秋季号(Vol.10,No.1)2004.11.01
[予防と早期治療のために]

 秋といえば芸術。なかでも音楽は一番身近です。光和堂ではクラシックを中心に 音楽を流しています。ヒーリングミュージックもよいのですが、リズムがある程度 はっきりしない音楽では治療を施しにくいのです。マッサージをする時もリズムが あるとやりやすい。このリズムに合わせると、患者さんの体も自然にその拍子に乗 ってきて、緊張が解けて、無理なくしかも早く凝りがほぐれてきます。

 秋といえば食欲でもあります。ところが「食べたくても食べられない」と悩んで いる人も多いのです。お腹の調子が不安で食べられないといった大腸の病気がある のです。そこで今号では、食べるとすぐに下ってしまう炎症性腸疾患とおなかが痛 くなる過敏性腸症候群を取り上げます。

◆ 炎症性腸疾患
 だれでもおなかを壊す時はあるものですが、体調や食べ物によって一人だけ下痢 するような経験のある人は多いと思います。冷たいものや辛いもの、さらに脂物な どでも下痢は起こります。食中毒と違って同じものを食べてもなんでもない人がい るのに自分だけおなかを壊してしまう。私も家族で一人だけ下痢していることがあ ります。自分では体質的なものと認識していますが、この炎症性腸疾患という病気 を知ると納得させられるところがあります。炎症性腸疾患には潰瘍性大腸炎とクロ ーン病があり、これらは難病に指定されていますが、日ごろの下痢しやすい体質の 方にも非常に参考になります。

◆ 潰瘍性大腸炎
 胃潰瘍という病名はなじみがありますが、潰瘍性大腸炎とは激しいひびきです。 大腸の粘膜が炎症を起し、充血してさらに赤く爛れます。この状態では消化した食 べ物をゆっくりと大腸に保持して、水分を吸収することができないので、すぐ下痢 してしまいます。さらに病状が進行すると大腸粘膜は傷つき剥れ、びらんや潰瘍が できてしまいます。このときは下痢だけでなく、粘液の混じった粘血便や下腹部痛 が発生します。血便が出るとさすがにだれでも驚いて受診すると思いますが、その 前段階の下痢のレベルではよほど頻回でない限り、正露丸などで自己治療している 方が多いと思います。

◆ クローン病
 なにか遺伝子に関係した病気のようですが、クローンとはこの病気を報告したニ ューヨークの内科医の名前です。断続的に腸に炎症が起こり、その炎症が大腸から 小腸、さらに胃から口腔内まで広がることがあります。

潰瘍性大腸炎が大腸に限局 していることに対して、クローン病では小腸の末端である回腸部位に好発し、消化 管全体で非連続的に炎症が起こります。潰瘍性大腸炎では粘膜を傷つけ剥がしてい くことに対して、クローン病では粘膜を溶かし薄くして、腸管を狭くし癒着させま す。その結果腸閉塞を起すこともあります。症状はやはり腹痛と慢性的な下痢で泥 状の便がでます。血便は少ないようですが、時に下血を起し手術が必要な場合もあ ります。

◆ 免疫の病気か?
 ストッパという水なしで服用できる下痢止め薬が今年発売されました。突然の下 痢や腹痛に悩まされている人はかなり多いようです。潰瘍性大腸炎も増加の一途を たどり、およそ六万人の患者数が報告されていますが、潜在的にはもっと多いかも しれません。特に二〇歳代の若者が三分の一を占めています。食生活の乱れや食事 の質的な問題も取り挙げられていますが、自己免疫の異常がその原因として有力視 されています。
 食物に細菌やカビ菌が混じる危険な状態がありますが、そのような病原菌が体内 に入り込まないように二重のガードがあります。まず胃の強力な胃酸でそれらの菌 を溶かします。さらに腸では免疫細胞や抗体が外敵を攻撃して侵入を阻みます。こ れを腸管免疫と呼びます。
 ところが炎症性腸疾患では、腸管免疫が狂って本来外敵を攻撃するはずの抗体が、 誤って自分の腸粘膜を侵してしまうのです。その結果、粘膜は炎症を起こし傷つい てしまうのです。

◆ 消化力の低下も関与
 なぜ、自分の腸粘膜を攻撃してしまうのかは、はっきりと解っていませんが、免 疫機能の異常だけではないようです。それは後で紹介する食事との関連からもいえ ることですが、炎症性腸疾患では消化し難いものを食べると悪化する場合が多いの です。脂肪や動物性タンパク質、水溶性でない食物繊維などは、胃や小腸で消化さ れ分解され難く、大腸へ高分子のままたどり着くことがあります。そのような高分 子のものは、外敵である細菌などと勘違いされて、免疫細胞が攻撃し、さらに抗体 が産生されることがあるのです。
 消化力の低い人では、このような食事が続くと腸での免疫作用はさらに刺激を受 けて抗体がどんどんと作られ、食物中の高分子物質への攻撃が、その周辺の腸粘膜 まで波及してしまうのです。

◆ 食事の質を高め消化を助ける
 新鮮な魚や露地物の野菜は入手しやすいのですが、冷凍していない新鮮な肉は高 くて手が出ません。脂肪分は、栄養素の中でも消化に一番手間がかかります。脂肪 は空気に触れると徐々に酸化し、鮮度の低い肉類は酸化した脂肪酸が多くなります。 酸化された不飽和度の低い

脂肪酸(オレイン酸やリノール酸など)は動脈硬化など の点からも悪く、消化力の弱い炎症性腸疾患の方は避けなければなりません。一方 酸化されていない不飽和度の高い脂肪酸(リノレン酸やEPA、DHA)は炎症を 抑える作用があります。肉類には前者の酸化された脂肪酸が多く、魚類にはEPA やDHAなどのよい脂肪酸が多く含まれています。
 やはり、ご飯と味噌汁に焼き魚の和食が一番です。消化力の弱い炎症性腸疾患の 人でも心配は要りません。そして和食は、腸の病気だけでなく、アレルギーや生活 習慣病などさまざまな病気の予防にもつながります。さらに、生姜やねぎなどの薬 味を消化促進や毒消しとして上手に使うところも、和食の優れた点です。

◆ 炎症性腸疾患の食事について

1.脂肪分を少なく
 肉類(特に鮮度が低く灰汁の多いものは絶対に ダメ)は避ける、魚は鮮度のよいものを調理して。
2.牛乳に注意
 乳糖を消化できない人は下痢する。乳糖を分解 したヨーグルトや乳製品は可。
3.食物線維を少なく
 腸管運動を刺激しガスと排便を多くする。果物などに含まれる水溶性の食物繊維はよい。
4.お米を主食に
 ごはんやお粥が消化によく腸の負担がない。麺類もよいがラーメンは注意。
5.タンパク質に注意
 植物性タンパク質がお勧め。クローン病では食事性抗原になりうるので控えめに。
6.灰汁のある野菜に注意
 ほうれん草などシュウ酸を多く含む野菜は灰汁抜きを必ずする。下痢による脱水から腎機能の低下や結石を招く。
7.嗜好品にも注意
 アルコール類、コーヒー、香辛料、チョコレートやナッツ類、スナック菓子。腸の刺激や脂肪分が多い。

◆ 灰汁(あく)は悪!
 日ごろの料理で欠かせない灰汁抜きも、安全にしかも健康に食事する知恵です。 ほうれん草のお浸しは腎臓結石の原因になるシュウ酸を除いています。山菜や筍の 灰汁抜きは、シュウ酸の他に有害なアルカロイドや硝酸を取り除きます。肉料理で の灰汁抜きでは、酸化した脂肪酸や変性したタンパク質などを除きます。カレーラ イスやシチューを作ると灰汁の量の多いことに驚きます。玉ねぎやニンジンなどの 野菜からも出ますが、悪い肉を使った時は、さらに灰色のもの凄い灰汁がブツブツ と浮び上がりぞっとします。これらの灰汁は健康の人にも有害ですが、すぐに反応 がでることはありません。

しかし、炎症性腸疾患やアレルギーなどの免疫疾患の方 は少量でもすぐに反応が出るの細心の注意が必要です。

◆ 過敏性腸症候群
 過敏性大腸炎とも呼ばれ、先に述べた炎症性腸疾患と違って大腸の粘膜の損傷や 潰瘍などは発生していません。つまりストレスや神経緊張などで誘発される腹痛や 下痢、便秘などの大腸の病気です。私もよく悩まされるのですが、通勤前や外出 (特に朝)にトイレに行きたいような気分になるのです。すっきり排便があればよ いのですが、お酒を飲み過ぎた翌朝は特に軟便になってすっきりしません。そんな 時は何度かトイレに行く必要があり、グズグズとしてなかなか出掛けられらないの です。  病院での消化器外来では、この過敏性腸症候群が半数近くを占めるともいわれて います。これに悩まされている人は多いのだと、駅のトイレで順番待ちをしながら 納得しています。あまり心配する必要はないのですが、粘血便がでたり、排便後も 激しい腹痛が続く場合は、炎症性腸疾患の可能性がありますから、病院を受診しま しょう。

◆ おなかをよく触ってみよう
 暴飲暴食を避け、規則正しい食生活に努め、ストレスを少なくするように心掛け ることは当然ですが、なかなか難しいものです。ストレス発散に一杯やればつい飲 み過ぎて翌日はまたつらい。田舎生活がよいかもしれませんが、仕事がありません。
 まず、自分のおなかをよく触ってみましょう。みぞおちから下、へそとの間に胃 があります。その下のへその周辺に小腸があり、右下腹から大腸が始まります。右 脇腹を上へ昇り、右肋骨の下で左に曲がり、横に進みます。ここで胃と接近します。 さらに左肋骨まで進みそこで下に降りて行きます。そして、左下腹でS字にカーブ して直腸に入り肛門です。過敏性腸症候群では、自律神経の働きが乱れ、腸の働き が亢進や抑制されて、腹痛や下痢、便秘を起します。仰向けになって、おなかの痛 く硬いところや緊張しているところを探って、やさしくマッサージをしてみましょ う。柔らかく緊張が解けるとおなかの痛みが緩和され、腸の動きが穏やかになり、 排便もすっきりします。ホカロンでの温めや、腹巻もよいです。

◆ 漢方で治す過敏性腸症候群
甘草(かんぞう)瀉心湯(しゃしんとう)(半夏(はんげ)瀉心湯(しゃしんとう))…軟便 や下痢、時に便秘しおなかがゴロゴロする。また、悪心し気分悪い時にもよい。排 便後はすっきりするタイプに向く。
桂枝(けいし)加芍薬湯(かしゃくやくとう)(小建中湯(しょうけんちゅうとう))…腹 痛が激しく、下痢はあまりしない。おなかを触ると硬く緊張している。


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